彼女の幸せ~B子の場合~②
「誰にも言わないで欲しいんだけど…」
ずっと思い詰めた顔をしていたB子が、言葉を選びながら話し始めた。
食事中も暗い顔をしていたB子。悩みでもあるのかな?と気になってはいたが、言いたいことがあるなら自分から切り出すだろうと放っておいたのだ。
今でいうところの「授かり婚」を目前にして、悩み事といえば夫になる人のことだろう。借金があったか、はたまた女の影か。瞬時に頭をよぎったが、B子の第一声は思いもよらないものだった。
「彼…性同一性障害らしいの。」
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そこにいた誰もが、固まった。
私も頭の中で「性同一性障害」という言葉を10回は繰り返しただろう。
偏見はないが、友人の夫になる人が…というのはさすがにちょっと戸惑ってしまった。
B子の話によると、彼はバツ2で子供が一人。かなりの俺様・亭主関白な性格が災いして結婚生活はあまり長く続かなかったらしい。
B子もその性格についていけず別れを決意したが、そんな時にカミングアウトされた。
亭主関白なのは性同一性障害だと気づかれないようにしているためで、前妻・前々妻には未だカミングアウトしていない。親兄弟も知らないし、職場でも隠し通している。でも家にいるときは女性の服を着て化粧をしているとのこと。
「最近は私の下着をつけたり、メイクやネイルをしてあげると喜ぶんだよね。」
B子が理解しているのであれば、私たちが反対する理由はない。
彼女が私たちに聞いてほしかったのは、
・子供が成長してどう思うか?
・彼はB子の両親には性同一性障害だと隠していたい
・中身は女性なので、仕事や家庭に対する考え方が甘い
(仕事に対する責任感や、家庭は俺が守る的な意識がないらしい)
といった内容で、結婚や出産を諦めることは全く考えていないようだった。
「まあ…なんとかなるんじゃない?」
色々考えてはみたものの、前例がないためこんな意見しか出なかった。
もし、私だったら。
自分の夫が「女性」だったと知ったなら、B子のように腹をくくれるだろうか。
タクシー乗り場に向かう私の足は重かった。
それから1年以上が経過したが、B子は幸せに暮らしている。
Facebookに子供の写真を載せたり、ママ友と遊びに行ったことを書き込んだりしているのを見ると、あの日の女子会を思い出す。
本当に「人生いろいろ、男もいろいろ」なんだなぁ。
彼女の幸せを願いながら、今日も「いいね」を押しているのだった。